アースデイがそろそろ近づいてきたということで、死にゆく地球から逃げることから始まる人類の物語について語っておきましょう。そのようなことを語るのは、人類が直面した困難を美化したり、貶めたりするためではありません。私たちの目的は、人類大脱出博物館の資料に基づいて、あの旅の内面を見て、方舟船の物語を明らかにすることです。方舟船とは、宇宙のどこかの新たな故郷へと人類を運ぶために造られた巨大な宇宙船です。
4万年以上前、人類は死にゆく星から逃げることを余儀なくされました。当たり前のように酷使され続けた地球の天然資源は枯渇し、緑の草原は干潟のようにからからに干からび、農地は不毛の地と化してしまったのです。自然は広大な都市空間に取って代わられ、あまりにも多すぎる人間に圧倒され、生存の余地はほぼないとう状況でした。
Exodus（エクソダス）という語は「どこかから出ていくこと」を意味していますが、23世紀の地球に生きた祖先たちにとってそれは、生存のための闘争と同義でした。死にゆく惑星から逃げるために、人類は方舟船の艦隊を築きあげました。巨大で、かすかな光を放つ技術の結晶は、希望と恐怖の両方をかき立てます。数十年、あるいは数百年先の、何もわからない未来へ旅する方舟に乗ることに怯えた人々も多かったといいます。けれど、搭乗のチャンスを与えられた人々は、ためらいながらもそのチャンスを掴みました。地球が生命なき荒野になろうとしている時代に、方舟船は未来を生きるチャンスを与えてくれましたから。それがどのような未来であれ。
方舟船に乗る権利をめぐる競争は熾烈を極め、社会が崩壊するなかで次第に減っていく資源をめぐって、方舟船の建造者同士の間では戦いが繰り広げられました。不運にも搭乗の権利を得られなかった人々のなかには、船に乗るために暴力に訴えた者もいます… あるいは、置き去りにされるぐらいならと、破壊しようとした者も。
しかし、地球から逃げることができた人々もまた、想像だにしなかった試練に直面します。その多くは、永遠の虚空に失われてしまったのです。ケンタウリ星団に居住可能な天体を見つけることに成功したのは、ごく少数の幸運な人々だけでした。それからの2万5千年間、人類の入植者たちを満載した方舟船が到来し続けました。最初の入植者たちが人類を新たな故郷へと招くために送信した「緑の星」信号は、多くの人々を引き寄せます。まったくの偶然で星団に到達した人々もいましたが… 大半の方舟船はたどり着けませんでした。
現在残されている資料から判断するに、ケンタウリへの旅は危険と困難に満ちたものだったようです。本来の定員の2倍以上の人員を乗せた方舟船では、人類の集団同士が引き起こす問題に対処しなければならなかったといいます。大脱出の間に方舟船で繰り広げられた試練についての物語は、衣服の切れ端や、個人的な備忘録の断片、冷凍睡眠ポッドのチューブに隠された日記などから知ることができます。それらはいずれも、方舟船に乗った人々の希望と苦難の残滓であると言えます。これからやってくる人々の役に立ってほしいという希望から、愛の物語も悪夢もすべて人類の遺産としてまとめられ、人類大脱出博物館の展示ケースの中に貴重な財宝のように飾られています。それらは人類の不屈の精神を証明している一方で、未来の困難を警告してもいます。
『EXODUS』へようこそ。
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